エーラス・ダンロス症候群とは
エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome=EDS)とは、20世紀の初めに発見された遺伝性の病気で、皮膚などをつくる結合組織にあるコラーゲンを生成する遺伝子に異常があることが原因となっています。
特徴としては、皮膚や関節が異常に伸びたり曲がったりすることです。
当初発見された古典型EDSといわれる分類以外にもその後、さまざまな病型が見つかっており、すべての病型をあわせるとおよそ5千人に1人程度の患者さんがいると考えられています。
地域や性別などにかかわりなく、発生する可能性がある病気で、遺伝子の異常であり対症療法に頼ることになる難治性の病気であることから、我が国でも難病指定されています。
エーラス・ダンロス症候群の原因
エーラス・ダンロス症候群(EDS)は、特定の遺伝子に異常がおこることによる遺伝病です。原因遺伝子の多くが体内で作られるコラーゲンに携わるものです。
この病気には、古典型、関節型、血管型、皮膚弛緩型などさまざまな型が発見されていますが、コラーゲン生成にかかわる遺伝子にも何種類かあり、どの遺伝子に異常がおきているかによって病態が異なってきます。
人の遺伝子は23個の染色体があり、それが通常の細胞では1対46個の染色体で構成されています。このうち22個を常染色体といい、最後の1個は性染色体で女性はX染色体、男性はXかY染色体をもっています。これらの染色体のどれかの異常が、男性か女性かのどちらかにあれば子世代に2分の1の確率で発症するのが優性遺伝です。一方、異常がある遺伝子が両性にあることで4分の1の確率で子世代に発症するのが劣性遺伝です。
EDSでは、古典型、関節型、血管型、多発関節弛緩型などがこのうち常染色体優性遺伝します。また後側彎型、皮膚弛緩型、筋拘縮型(古庄型)などは常染色体劣性遺伝となります。
エーラス・ダンロス症候群(EDS)の症状
エーラス・ダンロス症候群(EDS)として、さまざまな病型が発見されており、それぞれに少しずつ異なった症状を呈します。ここではその主な型ごとの症状を解説します。
古典型
- 皮膚をつまんだときに人よりあきらかに伸びやすく離すともとにもどる過伸展性
- 皮膚が裂けやすくすぐに破れる、破れると治りにくい、内出血する、治っても特徴的な模様が残る(瘢痕)などの脆弱性
- 関節の可動域が人より多く、脱臼をおこしやすい過可動性
- 心臓の僧帽弁の逸脱、歯茎や皮膚下などで出血しやすい、疲れやすい
などが古典型の症状の特徴です。
関節型
- 身体中の関節が脱臼や亜脱臼しやすい過可動性
- 慢性的な関節や四肢の痛み、便秘や下痢を繰り返す機能性腸疾患、自律神経異常
などが関節型の特徴で、皮膚の過伸展性もみられますが古典型より全体的に症状は軽めです。
血管型
- 全身の動脈に動脈瘤や動脈解離がおこりやすく、また血管が裂けることもある
- 腸管や妊娠時の子宮破裂などの臓器破裂をおこしやすい
- 皮膚が薄く静脈が透けて見える
- 気胸がおこりやすい
などが血管型の特徴で、皮膚の過伸展性や関節の過可動性は軽度です。
筋拘縮型(古庄型)
- 多くの部分で関節が固まってしまう関節拘縮(生まれてすぐにわかります)
- 特徴的な顔貌
- 皮膚が伸びやすく避けやすい過伸展性
- 全身の関節の可動域が一般より多く、脱臼・亜脱臼をおこしやすい過可動性
などのほか、足や脊椎が変形する、皮膚下に巨大な血腫ができるなどが筋拘縮型の特徴です。
エーラス・ダンロス症候群(EDS)の治療
EDSは、現在、残念ながら根本治療はできません。そのため症状の異なる病型それぞれにあわせて対称療法として異なる治療を行います。以下にタイプごとの主な治療法を挙げています。
古典型
皮膚の過伸張性や関節の過可動性については、激しい運動をしないこと、関節などをサポーターで保護することで予防します。皮膚が裂けてしまった場合の縫合については、全体の皮膚が脆弱であるため、慎重に行う必要があります。
関節型
疼痛をコントロールするために鎮痛薬の投与を行いながら、関節の過可動性に対しては保護のための補装具を使用したり、リハビリテーションを行ったりします。
血管型
動脈に動脈瘤や動脈解離などの病変がおこっていないかどうか、初診時から定期的にスクリーニングを行います。近年の研究で心臓病などの治療に使うβブロッカー(セリプロロール)薬(削除)を使って血管病変への予防を行います。
トラブルが発生したさいは、できるだけ切除などを行わず、保存的な療法を検討しますが、進行性の場合は血管内治療や手術を行うことになります。また腸管破裂などがあったさいは迅速に緊急手術を行う必要があります。
筋拘縮型(古庄型)
定期的に骨格に病変がおきていないかどうかを診察し、予防的リハビリテーション、病変が起こったさいには対症療法的治療を行い、機能回復のためのリハビリテーションも行います。その他定期的に眼科、耳鼻科、循環器科、泌尿器科などで異常がないか検診を続けます。
その他、薬物療法としては便秘対策として整腸薬や緩下薬の内服、巨大皮下血腫に対する止血薬の投与などを行います。
EDSの予後経過などについては、それぞれの病型によって異なりますが、根治方法については現在研究中であるため、できる限り発症させないための予防が必要です。
また、遺伝病であるため、家族計画に関しても医師と相談しつつ個々の症例にあわせて対応することになります。